東京地方裁判所 平成10年(ワ)28037号 判決
三和信用保証株式会社訴訟承継人
原告 フロンティア債権回収株式会社
右代表者代表取締役 野々下伊津巳
右訴訟代理人弁護士 小沢征行
同 秋山泰夫
同 小野孝明
同 安部智也
同 御子柴一彦
同 平賀敏秋
同 上枝賢太郎
同 徳田琢
被告 A
右訴訟代理人弁護士 山口邦明
右訴訟復代理人弁護士 宇野正雄
主文
一 被告は、原告に対し、一億四〇七四万七三一〇円及び内一一四七万九四二七円に対する平成一〇年一二月一二日から支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)、内九〇三五万五八三四円に対する平成七年一一月一一日から支払済みまで年二〇パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による各金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 金銭消費貸借契約債務に関する求償金債権
(一) 株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)は、平成二年九月一一日、被告に対し、以下の約定で、八七〇〇万円を貸し付けた(以下「本件消費貸借契約」という。)。
(1) 利率 年七・九〇パーセント(この一二分の一を月利率とする。)ただし、右利率は、毎年一〇月一日に、前年の一〇月一日のものとの比較による三和銀行の長期貸出最優遇金利の変動幅と同一幅で変更される。
(2) 損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割計算)
(3) 返済方法
(ア) 平成一二年九月より平成一三年八月まで、毎月二六日限り、七五六万三九六八円を支払う。
(イ) 平成二年九月より平成一三年八月まで、毎月二六日限り、残元金に対する一か月分の利息を支払う。
(4) 特約
被告が、三和銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったときは、当然に残債務全額について期限の利益を失う。
(二) 三和信用保証株式会社(以下「三和信用保証」という。)は、平成二年八月三一日、被告との間で、本件消費貸借契約に基づく被告の三和銀行に対する債務について、三和信用保証が代位弁済した場合の求償金債権にかかる損害金を年一四パーセント(年三六五日の日割計算)として保証委託契約を締結し(以下「本件第一保証委託契約」という。)、同日、三和銀行に対し、本件第一保証委託契約に基づき、本件消費貸借契約に基づく被告の一切の債務について保証した。
(三) 被告は、平成七年三月分以降の利息の支払いを怠り、遅くとも同年一〇月六日の経過をもって期限の利益を喪失した。
(四) 三和信用保証は、平成七年一一月一〇日、三和銀行に対し、本件消費貸借契約に基づく残元金八七〇〇万円及び未払利息三〇一万七一九一円の合計九〇〇一万七一九一円を代位弁済した。
(五) 三和信用保証は、平成一〇年一二月二一日、被告所有の不動産の競売代金から七八五三万七七六四円の配当を受け、右(四)の代位弁済による求償金債権の元金に充当した。
2 当座貸越契約債務に関する求償金債権
(一) 三和銀行は、平成二年九月一一日、被告との間で、以下の約定の当座貸越契約(以下「本件当座貸越契約」という。)を締結した。
(1) 極度額 八七〇〇万円
ただし、被告は、三和銀行が極度額を超えて貸付けをした場合にも、右超過額について本契約が適用されることを承認し、三和銀行の請求により、右超過額を直ちに支払う。
(2) 取引期限 平成三年九月末日
ただし、取引期限までに、三和銀行から被告に対し、契約を延長しない旨の申出がない限り、取引期限は同一期間延長される。
(3) 利率 年八・四〇パーセント
ただし、利率は、毎年一〇月一日に、三和銀行の長期貸出最優遇利率に年〇・五パーセントのスプレッドを加えた利率に変更し、その年の一一月一日から変更後の利率を適用する。
利息は、付利単位を一〇〇円として、毎月一五日に貸越元金に組み入れることができる。
(4) 損害金 年二〇パーセント(年三六五日の日割計算)
(5) 返済方法
毎月一五日限り、前月末日の当座貸越借入残高に応じて、次のとおり返済する。
(前月末日の借入残高) (返済額)
一万円未満 残高全額
一万円以上五〇万円以下 一万円
五〇万円超一〇〇万円以下 二万円
一〇〇万円超二〇〇万円以下 三万円
二〇〇万円超三〇〇万円以下 四万円
三〇〇万円超四〇〇万円以下 五万円
四〇〇万円超五〇〇万円以下 六万円
以下、前月末日借入残高の四〇〇万円を超過する額が一〇〇万円を超えるごとに一万円ずつ返済額を加算する。
(6) 特約
被告が、三和銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったときは、被告は、三和銀行の請求により、借入元利金全額を直ちに支払う。
(二) 三和信用保証は、平成二年九月一一日、被告との間で、本件当座貸越契約に基づく被告の三和銀行に対する債務について、三和信用保証が代位弁済した場合の求償金債権にかかる損害金を年二〇パーセント(年三六五日の日割計算)として保証委託契約を締結し(以下「本件第二保証委託契約」という。)、同日、三和銀行に対し、本件第二保証委託契約に基づき、本件当座貸越契約に基づく被告の一切の債務について保証した。
(三) 本件当座貸越契約に基づく貸付金は、平成七年九月二八日、八九四一万三〇〇〇円に達したことから、三和銀行は、被告に対し、同月二九日、右貸付金のうち、極度額超過分の二四一万三〇〇〇円を同年一〇月六日までに支払うよう催告したが、被告はこれを支払わなかったため、遅くとも同日の経過をもって、本件当座貸越契約に基づく残債務全額につき期限の利益を喪失した。
(四) 三和信用保証は、平成七年一一月一〇日、三和銀行に対し、本件当座貸越契約に基づく残元金八九八二万八七七四円及び未払遅延損害金五六万五三二一円の合計額から被告の三和銀行に対する預金債権三万八二六一円を相殺した九〇三五万五八三四円を代位弁済した。
3 三和信用保証は、平成一二年四月一日、原告に対し、債権管理回収業に関する特別措置法に基づき、被告に対する前記1、2の各求償金債権の管理及び回収を委託した。
4 よって、原告は、被告に対し、
(一) 本件第一保証委託契約に基づき、求償金債権の残元金一一四七万九四二七円
(二) 本件第一保証委託契約に基づく代位弁済金に対する代位弁済の日の翌日である平成七年一一月一一日から一部弁済の日である平成一〇年一二月一一日までの約定遅延損害金三八九一万二〇四九円及び(一)に対する右一部弁済の日の翌日である同月一二日から支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による約定遅延損害金
(三) 本件第二保証委託契約に基づき、求償金債権九〇三五万五八三四円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である平成七年一一月一一日から支払済みまで年二〇パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による約定遅延損害金の各支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)のうち、(1) ないし(4) の合意をしたことは否認し、その余は認める。同(二)、(三)は否認し、同(四)は不知。同(五)は認める。
元金の返済方法は、平成一三年八月二六日に一括返済するというもので、分割返済ではない。利息については、被告が、三和銀行の担当者の阿部輿吉(以下「阿部」という。)に対し、「現在、利息を払う余裕はないので、利息の支払が必要なら借入れしない。」と申し入れたところ、阿部は、「利息は払わないでもよいです。」と言ったため、被告は、利息は支払う必要がないと理解したから、利息の合意は成立していない。
損害金及び期限の利益喪失の特約については、契約書にその旨の記載があるが、これらは印刷文字であり、被告はその部分を読んでいないから、合意は成立していない。
2 請求原因2(一)、(二)は否認し、同(三)のうち催告書を受け取ったことは認めるがその余は否認し、同(四)は不知。
3 請求原因3は認否なし。
三 抗弁
1 錯誤(請求原因1(一)に対し)
本件消費貸借契約を締結した際、被告は、阿部に対して、「現在、利息を払う余裕はないので、利息の支払いが必要なら借り入れしない。」と申し入れたところ、阿部は、「利息は払わないでもよいです。」と述べた。これにより、被告は、利息を支払うことはないものと誤信したまま、本件消費貸借契約にかかる契約書に署名・押印した。
2 錯誤(請求原因1(二)に対し)
被告は、本件第一保証委託契約の契約書を作成した際、三和信用保証の担当者と面談もしていないし、保証委託の説明も受けておらず、右契約書を読んでおらず、その写しも受け取っていなかった。そこで、被告は、本件消費貸借契約の付属文書であると誤信し、三和信用保証と保証委託契約を締結する意思はないのに右契約書に署名押印した。
3 錯誤(請求原因2に対し)
本件当座貸越契約及び本件第二保証委託契約の契約書を作成した際、被告は、三和信用保証の担当者と面会したことはなく、阿部から説明を受けてもおらず、契約書の写しも受け取っていない。被告は、利息支払のために当座貸越契約及び保証委託契約を締結するとは理解しておらず、本件消費貸借契約にかかる書類を作り直したものと誤信して右各契約書に署名押印した。
仮に、被告が本件当座貸越契約の契約書を読んでいたとしても、これにより本件消費貸借契約の利息を支払うこと、利息支払のために借りた金員にさらに利息がかかること、総合口座の定期預金を担保に自動融資が行われること、右自動融資と本件当座貸越契約との関係などは、右契約書に説明がないし、三和銀行から口頭の説明もなかったのであるから、理解することはできない。
4 動機の錯誤(請求原因2に対し)
本件消費貸借契約による借入れは、一時払変額保険の保険料を支払うためにされたものであるところ、借入金八七〇〇万円の利息を原告主張の利率により本件当座貸越契約で返済する場合、一〇年後には、元利合計で、保険金一億五〇〇〇万円よりも三四七七万円も多い金額の返済を要することとなるが、被告は、そのような説明を受けていない。そのため、被告は、本件当座貸越契約を締結する意味・目的を全く理解していなかったから、本件当座貸越契約を締結する動機に錯誤があった。
四 抗弁に対する認否
抗弁1ないし3はいずれも否認する。
阿部は、被告に対し、各契約内容の説明をしている。また、被告は、弁理士の資格を有し、特許事務所の所長であったのであり、このように社会的知識のある被告が、契約書の内容を全く見ずに八七〇〇万円もの高額の融資契約を締結することは考えられない。
五 再抗弁
1 重過失(抗弁1に対し)
被告に元金部分の債務負担の認識しかなかったとしても、そもそも利息を払わなくてもよい融資契約が存在するはずがないのに、そのような契約が存在すると安易に思いこむことは重大な過失がある。
2 重過失(抗弁2、3に対し)
被告は、弁理士資格を有し、特許事務所の所長をしていた社会的見識のある者であるのに、契約書の内容をあまり確かめもせずに署名押印したことは重大な過失がある。
六 再抗弁に対する認否
認否なし。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1について
(一) 請求原因1(一)のうち、被告が三和銀行から八七〇〇万円を借り入れた事実は当事者間に争いがなく、これに、甲第一、第二号証を総合すれば、被告は、三和信用保証との間で、右借入れの際、請求原因1(一)(1) ないし(4) 記載の内容の合意をした事実を認めることができる。
なお、被告は、その本人尋問において、「被告は、阿部から、とにかく利息は払わなくてよいと説明され、本件消費貸借契約の契約書に署名押印した。」旨供述し、乙第四、第九ないし第一一号証にも同趣旨の記載部分があるので、この点について検討する。
まず、甲第一号証によれば、本件消費貸借契約の際取り交わした契約書の表題には、「三和ローン契約書」と記載され、元利金の返済方法欄もあることが認められ、甲第二号証によれば、右契約書と一緒に作成した契約書の表題にも「変動金利型ローンに関する特約書」と記載され、本件消費貸借契約における利息及び返済方法に関する特約が記載されていることが一見して明らかであることが認められる。これらに加え、甲第一六号証、証人阿部輿吉の証言によれば、本件融資は、三和銀行から変額保険の保険料の融資を受け、その利息支払のために当座貸越契約を締結し、当座貸越による借入金で利息を支払っていくという仕組みのものであり、阿部は、平成二年ころ、新規顧客開拓の営業の対象であった被告に対し、相続税対策として、「銀行から融資を受けて変額保険に加入し、右融資の利息は当座貸越により支払う」との仕組みを紹介した雑誌記事の写しを渡して勧誘したことが認められ、被告も、本人尋問において、「ただで貸すとは理解していなかった。当然利息は発生するだろうと思ったが、三和銀行の方の操作で処理されるんだなと思った。」という趣旨の供述をしていることに照らすと、結局、被告の右供述部分及び乙第四、第九ないし第一一号証の各記載部分を採用することはできないというべきである。
また、被告は、その本人尋問において、前記契約書に署名押印した際、被告自身が記載したのは、借主欄の住所、氏名、生年月日、借入金額欄の金額及び返済用預金口座欄の預金の種類及び口座番号のみで、利率等その他借入要項欄は空欄のまま記載されていなかったし、阿部から右利率等の貸付条件についての説明を受けていなかった旨供述し、乙第四、第九、第一一号証にも同趣旨の記載部分があるので、この点について検討する。
確かに、甲第一号証によれば、その借主欄の住所、氏名の記入者と借入要項欄の記入者とは、その筆跡から異なる人物により記入されたものであることが窺えるが、記入者が異なるということは、直ちに借入要項欄の記載が被告の署名押印より後になされたということにはつながらないし、そもそも、金八七〇〇万円という多額の借入れをするについて、特許事務所を開設、運営する弁理士である被告が、利率等の借入条件について、記載のない契約書に署名押印することそれ自体考えにくいのである。また、証人阿部が、利率等の貸付条件について、甲第一号証に基づいて被告に対し説明した旨証言していることに照らすと、被告の右供述部分及び乙第四、第九ないし第一一号証の記載部分も採用することはできないものといわざるを得ない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 甲第三号証によれば、請求原因1(二)の事実を認めることができる。
被告は、契約当時、三和信用保証の担当者と会ったことも、保証委託の説明を受けたこともなく、本件第一保証委託契約の契約書を読んでいないし、写しも受け取っていないとして、本件第一保証委託契約の成立を否認する。
しかしながら、甲第三号証には、「三和ローン保証申込書(兼)保証委託契約書」と表題がつけられ、その表題の下に、「三和ローンを借り入れるについて貴社に保証を委託します。」との委託文言があり、さらに、左肩部分に「三和信用保証株式会社御中」と記載されており、同号証の委託者欄に被告が自己の住所、氏名を自書し、かつ、押印したことは当事者間に争いがないから、その外形上、被告が、三和信用保証に対し、三和銀行から融資を受けるにつき保証委託をする旨の意思表示をしたことは明らかであり、これを受けた三和信用保証との間で本件第一保証委託契約が成立したことも容易に認められるのである。そうすると、被告が三和信用保証の担当者と直接会ったか否かは本件第一保証委託契約の成否に影響しないし、被告が契約書の記載内容を読んだか否か等も、本件第一保証委託契約における被告の意思表示が錯誤にあたるか否かについて問題とはなり得ても、契約の成否に影響することはない。
(三) 請求原因1(三)のうち、被告が平成七年三月分以降の利息を支払っていないことは当事者間に争いがないから、前記(一)で認定したとおり、本件消費貸借契約の特約に基づき、被告は、残債務について期限の利益を喪失することになる。
よって、請求原因1(三)の事実を認めることができる。
(四) 甲第六、第七号証によれば、請求原因1(四)の事実を認めることができる。 (五) 請求原因1(五)の事実は当事者間に争いがない。
2 請求原因2について
(一) 甲第一〇、第一一号証によれば、請求原因2(一)、(二)の事実をいずれも認めることができる。
なお、被告は、当座貸越契約をした意識はないし、三和信用保証の担当者と会ったことも、保証委託の説明を受けたこともなく、本件第二保証委託契約の契約書を読んでいないし、写しも受け取っていないから、三和信用保証に保証を委託した意識もないとして、本件当座貸越契約及び本件第二保証委託契約の成立を否認するので、この点について検討する。
甲第一〇号証によれば、その表題には三和カードローン(変動金利型)当座貸越契約書」と記載されているのであるから、これが当座貸越契約書であることは一見して明らかであり、しかも、その表題の下に「株式会社三和銀行御中」と記載されていることが認められるところ、被告がこれに署名押印したことは当事者間に争いがなく、甲第一一号証は、甲第一〇号証のカーボンコピーであると見られるが、その表題には「三和カードローン(変動金利型)保証委託契約書」と記載されており、しかも、その表題の下に「三和信用保証株式会社御中」と記載されていることが認められるところ、これに被告が直接押印していることは当事者間に争いがないのである。それらに加えて、三和信用保証の保証委託をつけることは本件消費貸借契約と同様であることからすると、被告が三和銀行に対し本件当座貸越契約の申込みの意思表示をしたこと、三和信用保証に対し本件第二保証委託契約の申込みの意思表示をしたことはいずれも明らかであるといわなければならない。したがって、本件当座貸越契約及び本件第二保証委託契約は、その成立が認められる。
(二) 甲第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件当座貸越契約の極度額超過分の返済を怠った事実を認めることができ、前記(一)で認定した本件当座貸越契約の特約によれば、被告は期限の利益を喪失することになるから、請求原因2(三)の事実を認めることができる。
(三) 甲第一四、第一五号証によれば、請求原因2(四)の事実を認めることができる。
3 弁論の全趣旨によれば、請求原因3の事実を認めることができる。
4 以上によれば、原告の被告に対する請求を認めることができるということになる。
二 抗弁について
1 抗弁1について
被告の主張に沿う証拠として、被告の本人尋問における供述及び乙第四、第九号証における各記載部分があり、これらによれば、被告が、融資の勧誘に対し、「これ以上借入れをして利息を払っていくことはできない。」と断ったところ、阿部が、「利息は払わなくていい。利息を払わない方法を取る。」と説明されたので、融資を受けることにしたというのである。
しかし、そもそも、甲第一号証である本件消費貸借契約の契約書には利率の欄があり、「年七・九〇パーセント(ただし、この利率の一二分の一を月利率とします)」との記載があるのであって、利息が発生するものであることは一見して明らかである。そして、前記一1(一)で認定したとおり、本件は、本件消費貸借契約と本件当座貸越契約が一体のものであり、前者の利息を後者を利用して決済するという仕組みの契約であって、月々の利息分を現金で用意する必要がないという意味で、「利息は払わなくていい」ともいえるが、およそ利息が発生しないというものではあり得ないのである。また、証人阿部は、本件消費貸借契約の締結に際して、被告に対し、契約内容を説明した旨の証言をしており、被告も、本人尋問において、「利息が発生しないとか、後でいいよというような話は特に何もありませんでした。とにかく利息がかからないようにしますよと。」「当然利息は発生するだろうと思いましたけれども、それは、例えば変額保険に入ることによって、運用益だとかそういう説明を非常に受けていましたから、じゃ、それで銀行さんは当座は賄っていくのかなと。」と供述しており、利息が発生しないものではないことは認識していたものと認めることができる。
そうすると、被告の右供述部分及び乙第四、第九号証の各記載部分を採用することは困難というべきであって、本件消費貸借契約について、被告主張のような錯誤の事実を認めるに足りる証拠はない。
2 抗弁2について
被告は、本件第一保証委託契約の締結に際して、保証委託の説明を受けておらず、契約書の記載内容も読んでいなかったこと等から、右契約書を本件消費貸借契約の付属文書であると誤信して署名押印したものであり、本件第一保証委託契約は錯誤により無効である旨主張する。
そもそも銀行から融資を受ける際、関連の保証会社に保証委託することは一般に広く行われている契約形態である上、前記一1(二)で認定したとおり、本件第一保証委託契約の契約書(甲第三号証)には「保証委託契約書」と表題がつけられ、文言も、三和信用保証に対し、本件消費貸借契約の債務の保証を委託する趣旨であることが明記されており、その中身が三和信用保証に保証を委託するものであることは明らかであるから、被告としては、これに署名押印している以上、甲第三号証について、本件消費貸借契約の付属文書であると思うことはあり得ないものというべきであるところ、証人阿部が、被告に対し、保証委託の趣旨を説明した旨証言していることに照らすと、右主張事実を認めることはできない。
3 抗弁3について
(一) 被告は、その本人尋問において、当座貸越契約やその保証委託契約について何の説明も受けておらず、これらの契約を締結するという認識はなかった旨供述し、乙第九、第一一号証にも同趣旨の記載部分がある。
しかし、証人阿部は、契約書につき各別に説明した旨、その理由として、被告は、自分で納得しないと署名押印しないので、きちんと説明している旨証言しており、被告の社会的地位、職業人としての見識等からすると、そうした対応をすることは十分考えられるから、同証言部分は信用できるものというべきであり、これに照らすと、被告本人尋問の右供述部分及び乙第九、第一一号証の記載部分を採用することは困難である。
また、被告は、本人尋問において、甲第一〇、第一一号証を作成した経緯について、「本件消費貸借契約の翌年に、被告の普通預金口座(乙第二号証)から毎月利息が引き落とされていることに気付き、阿部に抗議したところ、阿部は、間違いましたと言ったことがあり、そのころ、甲第一〇、第一一号証に署名を求められた記憶があり、作成日付は後で三和銀行がさかのぼらせたものであると思う。」との趣旨の供述をしているが、<1>前記一1(一)で認定したとおり、本件消費貸借契約は、利息を当座貸越により支払うことが前提となっているから、甲第一〇、第一一号証は本件消費貸借契約と同時期に作成される必要があると思われること、<2>被告が利息の引落しに気付いたという乙第二号証の口座から利息の決済が始まる前の平成三年一月二八日と同年二月二六日に、甲第一〇、第一一号証で決済口座に指定している別の普通預金口座(乙第三、第七号証)で貸付けが行われていることから、乙第二号証の口座から利息の引落しが始まったときにはすでに本件当座貸越契約は締結されていたはずであること、<3>乙第二、第三号証によると、当座貸越の指定口座が乙第三号証の口座から乙第二号証の口座に変更されたことが窺われ、その後は一貫して乙第二号証の口座から決済されているから、乙第二号証の口座で利息の決済がされるのは何ら間違いとはいえないこと等に照らすと、被告の右供述は不合理であって、採用することはできない。
(二) 被告は、本件消費貸借契約の契約書を作り直したと誤信していたと主張するが、右(一)にみたとおり、これを認めるに足りる証拠はないし、特別の理由もないのに契約書を作り直すということ自体不合理であるから、右被告の主張を採用することはできない。
(三) また、甲第一、第二、第一〇、第一一号証、証人阿部の証言によれば、被告が理解することはできないと主張する事項は、次のような仕組みになっていると認めることができる。すなわち、<1>本件当座貸越契約により本件消費貸借契約の利息を支払うことは、本件消費貸借契約の自動返済口座と本件当座貸越契約の指定口座が同じであることから、残高不足の時は結果的にそうなる仕組みということであり、<2>利息支払のために借りたといっても、本件消費貸借契約とは別個の借入れであるから、これに利息がかかるのは当然である。さらに、<3>総合口座の定期預金を担保に自動融資が行われることは、総合口座取引の約定によるものであるから、本件当座貸越契約とは関係なく、<4>右自動融資と本件当座貸越契約との関係は、右自動融資の限度額を超過した場合に本件当座貸越契約により自動融資がされるというものである。
このように、本件各契約の際取り交わされた契約書により仕組みを理解することは難しいものとはいえないのであるから、被告の主張は理由がない。
したがって、抗弁3は失当である。
4 抗弁4について
被告は、前記第二・三・4のとおり、本件当座貸越契約の意味、目的を理解していなかったから、動機の錯誤にあたり、本件当座貸越契約は無効である旨主張する。しかしながら、右主張において原告のいう動機を表示した旨の主張はないから、主張自体失当というほかない(その点を善解するとしても、本件全証拠によっても、原告のいう動機を表示した旨の事実を認めることはできない。)。
三 以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤新太郎 裁判官 片山憲一 裁判官 澤田久文)